大体、集中して走っていたら、周りの声なんて聞こえないだろう。それに競技中なら、立ち止まったりはしないよね。お父さんお母さん方の声が聞こえても、手を振り返すぐらいならともかく、本当はそれもしない方がいいんだけど、後ろを振り返ることなんてないんだ。
友達が転んでいても、自分で立ちあがるからいいんだよ。怪我してたって、六年生の救護班が助けてくれる。だからかけっこの時は、何も心配しないでただ走ればいいんだ。あそこまでトップだったんだぜ。一等賞なんだよ。勿体ないじゃん。
立たせたらレースに戻れよ。泣いてたけどさ、泣きながらだって走れるよ。脚を引き摺って歩くのに、付き合う必要何てないのさ。彼にだってプライドがあるだろう。手を貸して貰うのは、かっこわるいと思っているかもしれないよ。
*****
本格的に雨が降ってきた。運動会の得点競技は終わっていたので、児童のみの閉会式を体育館で行うことになった。一度帰宅してから、傘を持たない息子を迎えに行くことにした。
昇降口前で待つと、程なくして息子が出てきた。黄色い傘を渡して家路につく。
傘の花ざかりになっている校庭は、何とも歩にくい。校門を過ぎてちょっと落ち着いた。
「あのさあ、パパ。80m走、ビリだった」
あれ、ビリから二番目じゃなかったの?
「見てたならわかるでしょ。三人で走ったから、ビリでも銅メダルなんだ。三人組はお買いとく」
転んだ子がいたじゃん。それでもビリなの?
「立たせてあげたら『ビリは嫌だ』って泣くんだもん。一緒に走って、最後背中を押してあげた」
そうだったんだ。だからビリになっちゃったんだね。
「でも三等賞リボンをもらったよ。ほら、これ」
よかったねって、なんで二つもあるの?
「こっちは一等賞のリボン。一緒に走った子が、かっこわるいからあげるっていうから、貰っといた」
ふうん。何でかっこわるいと思ったのかな?
「知らないよ」
*******
父親として相当かっこわるいな。沢山あった言いたいことが、何一つ言えなかった。
ま、いっか。
Posted from MixiDock mini