2008/01/14

正当防衛と救急医療

心肺停止状態の患者を、12もの医療機関が受け入れを断り、そののち搬送された病院で死亡するという事故が発生した。これ限らず受け入れ拒否による死亡事故は、枚挙にいとまがない。

しかし、現行法規上で医師や医療機関を責めることはできない。高いレベルの医療基準が法制化されており、恣意的に水準を落とすことはできないからだ。水準を高く保つために、受け入れ拒否をせざるを得ないのであろう。

先日、沖縄でひめゆりの塔を見てきた。太平洋戦争末期の沖縄戦でほぼ全滅した、沖縄陸軍病院第三外科壕の跡に立つ慰霊碑である。併設されているひめゆり平和祈念資料館では、当時の病院壕内部の様子が生々しく紹介されていた。医療スタッフとひめゆり部隊は、劣悪な環境と激しい砲撃の最中、乏しい物資を用いて医療を続けていたのである。

彼らが現代日本の病院を見たならば、どう思うだろうかと想像してみた。むろん、平和な現代と戦時中では状況が全く異なるから、単純に比較することができないことは明白である。双方とも機能は「命を救うこと」だ。しかしながら、彼らが「できない」と思うことと、受け入れ拒否をした病院が「できない」と言うことは、同じ言葉でも重みが全く異なることは想像に難くない。

突発的な大事故が起こらない限り、現代の救急病院が、物理的にキャパシティーがいっぱいになる事態はないだろう。例えば、設計基準が守られていれば、廊下を病室代わりに使っても、十分に通行ができるだけの余裕があるはずなのだ。

恒常的に続けるのは難しいだろうが、心肺停止状態など、受け入れ拒否が直接かつ短期的に命に関わる場合に限って、その余力を取り崩すことはできないだろうか。後日正当防衛と同レベルで合法性の審査を義務づけることで、闇雲に適用するのを防止できると思われる。

また、拒否の件数など、患者の状況を救急隊と病院で共有することで、病院側も能動的な立場で、患者の受け入れ体制の最適化を図ることができるだろう。

柔軟な対応が可能になれば、少しずつ救急病院に余力ができて、このような不幸な事故を減少させることができるのではないだろうか。


心肺停止女性を12病院が拒否
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=382101&media_id=4


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