妻には秘密

奥:えー、これは何だ？

丼:所謂、コンパクト・ディスクって奴だな。

奥:二枚あるから「これら」だね。何、これらは。

丼:いま言ったじゃん。

奥:だから、なぁに？

丼:……パフュームの新譜、love the world

奥:ふぅん、パフュームねぇ。

丼:あ、「パ」にアクセント。「フュー」じゃなくて。

奥:……で、もう片方は？

丼:片方が通常盤で、もう片方が初回限定盤。

奥:……どう違うの。

丼:初回限定盤には……おまけが付いてくる。

奥:そうなんだ。それで同じものを二枚買ったんだ。まにあだね。


アマゾンの説明が判りにくかったんだ。勘弁してくれ。

……説明したところでこの窮地から脱することはできないが。


奥:ねえ、平成元年の時何歳だった？

丼:えっと、22歳だよ。

奥:この子たち、平成生まれなんじゃないの？

丼:一人だけ平成生まれだよ。ほらこの子、あーちゃん。

奥:……詳しいんだね。


しまった、本日二度目の墓穴だ。


奥:22歳ならば子供がいてもおかしくないよね。

丼:なんか、お嬢々(娘のこと)もこうなるのかと思ってね。

奥:……あの子は人前で歌を歌ったりしないよ。

丼:そうだけど、……デビューがいまのお嬢々の歳だから、ビデオとか見ているとなんとなく、ね。

奥:そうなんだ。


痛々しいチャイドルが大人になっていくさまは、娘の年代と重なることもあって、ちょっと感動的だった。どんな親学のセミナーでも、多感な時期の成長過程を映像で見せてくれることはない。いろいろ考えることはあるけれど、なんというか、自信をもらったのだ。

アイドルを観るには動機が不純だな。


奥:最近ライブハウスにいってないよね。今度サムタイムに行こうよ。


サムタイムとは吉祥寺にあるジャズクラブ。かつて脚繁く通ったが、かれこれ５年行ってないことに気付いた。


奥:もうジャズが似合う年頃だよ。


まあ、娘の追っかけをやるような親父にはなりたくないし。