2008/07/15
火熾し
娘が中学校の合宿から帰ってきた。リビングで日記を打っていると、自分の部屋からのこのこ出てくる。
いろいろ言いたいことがあるらしい。母親は面倒くさがって愚痴を聞いてくれないのだ。
疲れたらしい。
ダルいらしい。
もうあんなところ、行きたくないらしい。
それでも嬉々として合宿を語る娘。画面を見ながらふんふんと相づちをついてやる。
「みんな何にも知らないんだ。新聞紙からいきなり太い枝に火をつけようとしたり、いきなりバタバタ扇いじゃったり。常識ってものがないんだよ」
娘は今年8年目のガールスカウト。アウトドアスキルが高いのだ。普通の中学二年生にとって、火興しは初めてか数度の経験がある程度だろう。娘は経験数が二桁違う。
『それで君は手伝ってあげたの?』
「別に。本人がやりたがっているから手は出さなかった。新聞紙を五束ぐらい使って15分ぐらいかかったけど、一応火が付いたしね」
『君が手伝えば5分で火が付いたんじゃないの。』
「あのときだったら5分もかからなかったよ。あ、このお菓子おみやげ。鈴の形なんだよ」
『ん、おいしい。ありがとう』
「クリーム餡の方をもらっていい? パパの分一個になっちゃうけど」
『パパは一つでいいよ。
5分で終わるものを15分もかけるのはもったいないな。意地悪しないでやってあげればいいのに』
「やりたい人がやればいいんだよ。時間が掛かったってその人の責任だもの」
『それが意地悪なんだよ。6人のグループが10分の時間をもてあませば、延べ1時間の無駄。判るよね』
「そうだけど」
『それからあんなに作った牛乳パックの短冊はどうした。あれは火種に使うんだよね』
「火興しをしていないから使わなかった。だから全部友達にあげちゃった」
『そう。あんなに一生懸命牛乳を飲んだのにね』
娘は不機嫌になり部屋に戻ってしまった。困っているならば手を貸してやれよ、娘。
程なく電話が掛かってくる。入浴中の妻宛なので、こちらからかけ直すことを伝えた。
「娘さん、ガールスカウトをやってるんですか。合宿ではいろいろ教えていただいたようです。ありがとうございました」
なるほどね。キャンプサイトの釜戸から釜戸へはね回る君の姿が見えるようだよ。普通の子なら牛乳パックなんて思いつかないから、君が用意したんだね。自分でやらないとできるようにならないから、手を出さずにアドバイスしながら見守っていたんだ。
『出てこいよ。乾杯しようぜ』
「……ジュースか何かあるの?」
『麦茶』
「なんだ、しけてるの」
『いいじゃん。ちゃんと氷も入れるからさ』
「あはは」
麦茶でつれるところが彼女らしい。
『火の熾し方を教えてたんだね』
「そうだよ」
『上手くなった?』
「はじめはみんなへたっぴでさ、見てられなかったよ」
『それでも手伝わなかったんだ』
「うん。見てられないのを我慢して見ているのがミソなんだな」
笑顔で語る娘。大きくなった。
もうちょっと大きくなったら一緒に、もうちょっとおいしい麦茶を飲もう。
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