私は方程式を解くのが大好きだった。不注意な奴なのでミスは多いが、答えの下に二重線を引くことに快感を覚えた。数式を単純にするプロセスに甘美な魅力を発見できたのは、私の幸せな出来事のひとつである。
娘はそうではないらしい。八時半からついさっきまで愚痴を言い続けていたぐらいだから。
事の発端は娘がフルートを習いたがっていることだった。リコーダーが得意なので、その延長線上で木管楽器を習得したいらしいのだ。聴音したままの音でそのまま演奏ができる音感がある彼女だから、音楽教育はうけさせるべきだと考えていた。私は乗り気で教室探しをしたのである。
ところが妻はこのプランに条件を付けたのだ。数学の点数が上がったら来年から通ってよいとのこと。熱しやすい娘を一旦クールダウンさせる目的の言動だろう。
「フルートよりも前にやるべきことがあると思う。数学の成績を上げなさい」……正論である。
しかし、数学を出したのはまずかったようだ。娘は自ら「数学に嫌われている」と思いこむほどの数学嫌いだったのだ。途端に絶望的な気分になったらしい。
気丈にも妻が寝てしまうまで何も言わずに耐えた娘は、私がパソコンを取り出すと途端に話し始めた。今日役所で教えて貰った早口言葉のような名前の条例についての日記を書いている途中、娘はノンストップで話し続ける。
最初は何のことだか判らなかったが、どうも情緒不安定になったらしい。こちらの作業に支障があってもお構いなし。
気持ちは解らないでもない。でもね。
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