最近、実家帰ってないな…
(両親の姿を回想)
…正月には帰るか
…何か持っていこうかな
何かいいものないかな
(ラップトップを開く)
お、これいいな
(画面を見ながらニコニコ)
これもっていったら、びっくりするだろうな。
……正月。
(どーんと風呂敷包みをプレゼント)
ただいまー
「わあ、どうしたのこれ!? すごーい。豪華ね!」
博多久松のおせち
Gigazine(http://
我が家では、おせちは気合いを入れて完全自作する。そのため正月用の折り詰めを買う感覚はない。このバナー広告で初めて商品の需要パターンが見えてきたが、それでも何となく不自然だ。
久しぶりに帰ってくる息子のために、両親が気合いを入れておせちを用意していたらどうするのだ。食品が入っている重箱を長距離持って帰るのは、衛生上問題はないのか。そもそも重いでしょう、それ。等々、疑問が湧いてくる。
と言うわけで冷やかしクリック(http://
ふむふむ、なるほど、そうなのか、などなど、先の疑問が解決しないまでも、何となくわかった。主婦だって正月はゆっくりしたいと言う論理は、おせちが「男の料理」である我が家には通用しないものの、極めて理にかなった主張である。仕出しのおせち折り詰めには明らかに需要があるのだ。
気になったのは店長の松田さんだ。仕出しおせちの広告をGigazineに打つなんてなかなか思いつかない。ちょっとギークが入っているのかな。写真を見る限り30代半ばぐらい、年末は忙しいんだろうな。
*****
妹:ねえパパ、今日は何して遊ぼうか?
父:ごめんね、パパ会社なんだ。
妹:日曜日だよ、パパ。
父:……
妹:つまんないの
姉:お父さん、お帰りなさい。
父:ただいま。まだ起きていたのか。
姉:うん、話があるから。
父:どんな話?
姉:あのね、……
父:……
姉:ねえ、聞いてる?
父:……あ、ごめん。それで?
姉:わかってる、疲れているもんね。元気なときに聞いてね。
妻:最近寝言が多いね。昨日も言ってたよ。
夫:どんなことしゃべってた?
妻:いくらがどうの海老がこうの、だいたい魚介類のこと。
夫:きっと仕事の夢を見ていたんだ。
妻:気を張り過ぎよ。今度の週末はゆっくりできるの?
夫:今が正念場なんだ。正月までは休めない。
……正月。
リビングルームにあるテーブルの上には、博多久松謹製の「千代」が鎮座している。松田が精魂込めて作り上げた逸品だ。一つの仕事をやり遂げた爽快感が、松田にとっての正月らしさなのだ。
姉:おはよう、じゃなくて、おめでとうございます。
妹:おめでとうございます。えへへ、間違えなかったよ。
姉:こら!
妹:ねえパパ、何して遊ぼうか。
父:その前におせちを食べようよ。
姉:あ、これ?
蓋を開けようとする姉を妻がたしなめる。
妻:ちょっと待ちなさい。それよりお雑煮を運ぶの手伝って。
姉:はあい。
妹:何がいいかな、福笑いもすごろくもあるよ。
父:そうだな、両方ともやろうか。
妹:やったー
妻:仕度できたよ。朝ご飯にしましょう。
姉:朝ご飯じゃなくて、「お・せ・ち」でしょ。お母さん。
妻:そうね。「おせち」にしましょう。
妻は重箱を開けようとしたが、松田の顔を見て手を戻した。
妻:これ、開けて。
娘たちの目が重箱に注がれる。期待に満ちた視線だ。松田が恭しく蓋を外すと、歓声が漏れた。
娘:わぁ、すごーい。
妻:美味しそうね。
金箔の照り返しで、娘たちの笑顔が黄色く色づいている。感無量だ、この笑顔のために頑張ってきたのだから。
姉:これ、お父さんの会社で作ったの?
父:そうだよ。何千個も作ったんだ。
妹:みーんな、今日食べるんだよね。
そう、何千という家族がたったいま重箱を開いている。正月を重んずるこの国の人のために、一年で最初に口にする物を一つ一つ吟味して磨き上げてきた。笑顔はうちの娘だけではないのだ。生産した一つ一つの重箱に、それぞれの笑顔が存在している。なんと幸せなことだろう。
松田は目頭を押さえずにはいられなかった。
姉:お父さん、どうしたの?
*****
くー、かっこいいぞ松田。
(呼び捨て失礼)
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